法人の生命保険は節税にならない?節税になるケース・ならないケースの違いを説明
公開日 2023年5月2日 更新日 2023年6月5日
会社の規模や業種に関わらず、何か良い税金対策がないかお悩みの経営者の方も多いのではないでしょうか。
節税対策の方法については選択肢がいくつかありますが、本記事では生命保険を活用した税対策について解説します。法人の経営者の方を始め、役員や経理担当者の方も知っておきたい知識ですので、ぜひ参考にしてください。
目次
法人の生命保険で節税にならないケースとは?
法人の加入する生命保険では、税対策として効果がないケースがあります。どのような場合に節税対策として使えないのか見ていきましょう。
かつては法人保険=節税だった
かつての法人向け生命保険では、保険料を損金に計上することで利益を減らし、結果として法人税を少なくすることにより税対策として有効活用されていました。
さらに、一定の時期に解約することで得られる解約返戻金により将来的な資金確保としても法人保険が活用されていたのです。法人保険=節税と広く認知されていた時代がありました。
2019年の税制改正で節税効果が薄まった
しかし2019年の税制改正により、解約返戻金の返戻率が高い(50%以上)保険ほど損金として計上できる割合が小さくなりました。具体的には、解約返戻率50%以上の保険が対象となり、損金計上に制限がかかるようになったのです。
なお、税制改正の対象となったのは、生命保険の定期保険および第三分野商品です。第三分野商品とは、医療保険やがん保険など、生命保険会社でも損害保険会社でも取り扱いのある保険商品を指します。
2019年の最も大きな改正ポイントは、「解約返戻率が高い保険ほど、損金計上できなくなった」という点です。
資産計上額が大きいと節税にならない
国税庁では、法人向け保険のピーク時の返戻率の高さに応じて一定期間の保険料を「資産」として計上し、残りを損金に計上するという方法を採用しています。また、資産計上額が大きいと法人の生命保険で税対策とはなりません。
返戻率と資産計上期間・額について国税庁のサイトを参考に以下の表にまとめました。
区分 |
資産計上期間 |
資産計上額 |
取り崩し期間 |
最高解約返戻率50%超70%以下 |
保険期間の開始の日から保険期間の100分の40相当期間を経過する日まで |
当期分支払保険料の額に100分の40を乗じて計算した金額 |
保険期間の100分の75相当期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
最高解約返戻率70%超85%以下 |
同上 |
当期分支払保険料の額に100分の60を乗じて計算した金額 |
同上 |
最高解約返戻率85%超 |
保険期間開始の日から最高解約返戻率となる期間(その期間経過後の各機関において、その期間における解約返戻金相当額からその直前の期間における解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が100分の70を超える期間がある場合には、その超えることとなる期間)の終了の日まで
(注)上記の資産計上期間が5年未満となる場合には、保険期間開始の日から5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合には、保険期間開始の日からその保険期間の100分の50相当期間を経過する日まで)とします |
当期分支払保険料の額に最高返戻率の100分の70(保険期間の開始の日から10年を経過する日までは100分の90)を乗じて計算した金額 |
解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間(左記資産計上期間の欄の(注)に該当する場合には、当該(注)による資産計上期間)経過後から保険期間終了の日まで |
法人の生命保険で節税になるケースとは?
法人の生命保険を活用することで、税対策として有効に働く場合があります。
法人保険への加入を検討している場合や、すでに加入している企業が税対策としてより高い効果を得るためのポイントを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
生命保険解約のタイミングにより節税効果がある?
法人向け生命保険の解約金は、資産計上しなければならない期間は定められています。しかし、その期間を過ぎれば全額損金で計上することが可能です。そのため、解約のタイミングによっては税効果を見込めます。
ただし保険税務は複雑ですし、企業の規模や財務状態によって採るべき対応は異なります。解約のタイミングは自己判断ではなく、税理士などの専門家への事前相談が望ましいでしょう。
詳しくは、以下の参考記事をご参照ください。
<参考記事>
法人で生命保険に加入するメリット
法人が生命保険に加入するのは税対策だけが目的でなく、他にもメリットは少なくありません。ここでは、次の4つのメリットについて解説します。
【法人向け生命保険に加入するメリット】
- 会社経営の安定化
- 事業承継に伴う税負担を軽減
- 貸付制度の利用
- 福利厚生の充実
会社経営の安定化
法人が加入する生命保険で経営者を被保険者とする場合、万が一経営者に不測の事態が発生したら保険金や給付金は法人が受け取ります。そのことにより、少なくとも当面の企業運営資金の確保が可能です。
ただし、保険金の受け取り方によっては税対策の効果が最大限発揮できないことがあるのでご注意ください。たとえば、法人が受け取った保険金を雑収入として一気に益金にするのではなく、複数年度にわたって受け取っていく方法にした方が良い場合もあります。
そのため、法人が生命保険に加入する際には、保険金の受け取り方にはどのようなバリエーションがあるのかも事前に確認しておくと安心です。保険商品によっては、決められた受け取り方法しか選べない場合もあるため注意しなければなりません。
事業承継に伴う税負担を軽減
経営者に万が一のことが発生し、急遽後継者が相続することになる場合や、将来的に事業継承などを行う場合には、相続税や贈与税などの支払い義務が発生します。そのため、経営者が自身に何かあった場合の納税対策として生命保険を活用しておくと安心です。
具体的には、法人が生命保険に加入することで会社の利益を圧縮し、結果として株式の額引き下げにつながるため、相続税・贈与税を抑えることが可能です。相続税や贈与税の具体的な効果に関しては、事前に税理士など税務のプロに相談することをおすすめします。
貸付制度の利用
養老保険や終身保険など貯蓄性のある生命保険に加入している場合、急にまとまった資金が必要となった時に利用できる契約者貸付制度があります。
契約者貸付制度は、生命保険の解約返戻金のうち一定の割合までの現金を取り出せる制度です。担保や審査も要らずスピーディに受け取れるため、急な経営リスクの際には活用できます。どの割合まで貸付が可能かは、保険会社の規程によります。
また、貯蓄性の高い生命保険であっても、契約者貸付制度の対象外となっている保険もあります。法人が生命保険に加入する場合には、万が一のリスクヘッジのために、事前に契約者貸付制度の対象となる保険であるか確認しておくと安心です。
福利厚生の充実
法人が生命保険に加入することで、役員や従業員の福利厚生としても活用できます。役員を被保険者とする生命保険では、中途解約によって解約返戻金を受け取り、それを原資として退職金に充てることが可能です。
従業員を被保険者とする生命保険では、在職期間中に生命保険の支払事由に該当することになった場合、保険金や給付金が法人または遺族に給付されます。
生命保険の種類のうち、誰を被保険者にするのかによって福利厚生として活用しやすい保険商品はさまざまです。そのため、福利厚生を目的とした生命保険への加入を検討する場合には法人保険のプロへ相談するのがおすすめです。
法人で生命保険に加入するときの注意点
ここからは、法人が生命保険に加入する際、気をつけたいポイントについて解説します。以下で解説するポイントは、企業の状況により一律ではありません。一般的な例として参照していただき、詳細に関しては信頼できる保険のプロへご相談ください。
【法人で生命保険に加入するときの注意点】
- キャッシュフローの悪化に気をつける
-
福利厚生規程を策定する
キャッシュフローの悪化に気をつける
生命保険は、個人も法人も継続することが前提の仕組みです。そのため、保険期間に解約すると金銭的な損害を被ることもあり得ます。
特に法人で生命保険に加入する場合は、個人よりも保険料総額が大きくなる傾向にあるため、事前の資金繰りに関しては慎重に検討しましょう。
毎月あるいは毎年の保険料の支払いでキャッシュアウトなどのリスクが高まるため、事前の資金計画を立てることが重要です。
福利厚生規程を策定する
福利厚生として生命保険を利用する場合、福利厚生規程を設けていなければ損金として計上できない可能性があります。
具体的には、従業員を被保険者とする生命保険に加入する場合、福利厚生規程にすべての従業員が対象となる旨の記載が必要です。法人の規模にもよりますが、従業員全員を被保険者とする生命保険への加入では、支払う保険料が大きくなります。
そうすると、損金計上となる金額も大きくなるため、福利厚生規程に明記しておかなければなりません。記載がない場合、税務署から損金計上を否認される可能性もあります。
法人向け生命保険の選び方
ここからは、法人が生命保険を選ぶ際に押さえておきたいポイントを解説します。
【生命保険を選ぶポイント】
- 臨機応変な対応ができる生命保険を選ぶ
- 法人保険のプロに相談する
臨機応変な対応ができる生命保険を選ぶ
企業経営をしていると、突然のトラブルに見舞われることもあります。その場合でも臨機応変に対応できる生命保険を選ぶと良いでしょう。先述した契約者貸付制度が利用できる生命保険であれば、企業における資金繰りの悪化でも一時的にまとまった資金を得ることが可能です。
他にも、保険料はなるべく年払いの振込扱いで加入するのもポイントです。年払いにしておくことで、長期的に生命保険を継続することにつながります。たとえば、取引先の倒産や業績悪化などで資金繰りが苦しくなった場合でも、年払いで保険料を支払っておけば、月々の生命保険の支払いを気にする必要がありません。
法人保険のプロに相談する
企業の規模や財務状況は企業ごとに異なります。関連して、企業を取り巻くリスクも企業ごとに違います。そのため、経営者自身で生命保険に加入したほうが良いかどうかの判断は難しく、「法人保険に特化した専門家」に相談したほうがスムーズです。
生命保険を税対策で活用したいのか、福利厚生としても活用したいのか。
経営者や企業が生命保険に何を求めているかによって、選ぶべき保険商品は違います。その際に、法人保険のプロへの相談は欠かせません。加入前と加入後、解約時など、いずれの場面においても信頼できる法人保険のプロと一緒に検討していくことをおすすめします。
<参考記事>
税対策を検討したいなら、法人保険のプロへの相談がおすすめ!
法人の税金対策には、法人向け生命保険への加入もおすすめです。法人向け生命保険について興味がある方は、経験豊富な保険のプロが揃っているトータス・ウィンズにぜひ気軽にご相談ください。
トータス・ウィンズでは、経験豊富なスタッフが在籍しており、お客様に寄り添った最適なアドバイスをさせていただきます。
また、必要に応じてベテランの税理士や司法書士など専門家やパートナー企業がサポートいたします。法人保険のみならず、税金対策や財務管理の悩みがある経営者の皆様はぜひ一度ご相談ください。最適な答えを導くお手伝いをします。
まとめ
法人の生命保険は、保険料の一部または全部を損金算入できるため税対策として有効です。
ただし、保険の期間や解約返戻率などによって、どの程度メリットが受けられるかには違いがあります。また具体的な税対策を検討したい場合には、法人向けの生命保険における損金算入のルールは厳しくなっているため、法人保険のプロも交えて熟慮したほうが良いでしょう。
生命保険への加入についてだけでなく、財務相談や経営上のリスクヘッジについてもトータス・ウィンズへぜひご相談ください。
【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
皆さんが安心して納得できる金融商品選びができるよう、わかりやすい記事を書き続けることで貢献していきます。