全国の法人企業、約65%は赤字…「後継者探し」は容易ではない
生徒:日本では、経営者の高齢化が問題となっています。東京商工リサーチの2022年の調査によれば、全国の社長の平均年齢は63歳だそうですね。
先生:高齢の経営者にとって、事業承継は大きな課題です。一般に中小企業経営者は、自分の子息・親族・従業員から後継者を探します。黒字体質で将来性のある企業なら、後継者が見つからなかったとしても、社外から経営者を招聘したり、M&Aで事業を売却したりすることができます。
生徒:最近は中小企業のM&Aも増えていますね。
先生:しかしながら、国税庁によれば、全国の法人企業の約65%が赤字だといわれています。赤字体質で将来性がない企業は、後継者を見つけることも、売却先を見つけることもままなりません。そのため、多くの経営者が「自分の代限りで廃業しよう」と考えているのです。
生徒:淘汰されていくのは仕方ないですね…。
先生:それに加え、コロナ対策で導入された「ゼロゼロ融資」、すなわち、無利息・無担保の融資について、2023年の夏から元本返済が本格的に始まりました。多くの企業が返済資金を手当てするメドを立てられず、資金繰りに困っています。これが原因で、廃業を検討する経営者がさらに増加したのです。
生徒:2023年10月から導入されたインボイス制度の影響はあるのでしょうか?
先生:企業の負担は増えますから、「課税事業者になるくらいなら、廃業したほうがいい」と考える経営者が出てくることも考えられるでしょう。
廃業の決断を鈍らせる、従業員・メインバンクからの「お願い」
生徒:ところで「廃業」といっても、いまおこなっている事業をやめるだけのことではありませんか? 古いビジネスがなくなり、新しいビジネスが誕生するということですね。日本経済の新陳代謝が行われることで、なにが問題となるのでしょうか?
先生:廃業を進めることそのものには、なにも問題はないのですが、その手続に多くの難題が待ち受けているのです。とりわけ問題になるのが、借入金の返済です。会社が保有する資産が借入金を上回る状態であれば、資産を売却して借入金の返済に当て、円滑に廃業することができます。しかし、資産が借入金を下回る状態であれば、廃業すると借入金だけが残ってしまいます。経営者個人からの借入金であれば、法的に消滅させる方法があるのですが、これが銀行借入金だと困ったものです。
生徒:返済できないなら、法的に破産させればよいのではないでしょうか?
先生:多くの経営者が会社の借入金に個人保証をしています。そのため、会社が破産すると、借入金の返済が経営者個人に回ってくるのです。個人財産を使って返済できればいいですが、それができなければ、経営者は自己破産に追い込まれてしまいます。
生徒:自己破産は避けたいですね…。
先生:そうなのです。資産が超過する健全な状態のうち、早めに廃業を決断すればいいのですが、実際のところ、多くの経営者はその決断ができず、ズルズルと先延ばしにしてしまいます。
生徒:経営者は経営改善できると信じ「もう少し辛抱すれば業績が回復するだろう」と思っているからでしょうね。
先生:そうですね。それに加え、従業員や金融機関が事業の継続を強く要望することも、廃業の決断ができなくなる大きな理由となっています。「廃業に抵抗する圧力」が大きいのです。
生徒:私の知り合いの高齢の経営者の話ですが、「近いうちに廃業したい」と従業員に打ち明けたところ、50代後半の従業員から「年金が出る7年後まで、なんとか廃業しないでほしい」とお願いされたそうです。ほかにも、メインバンクに相談したら支店長が出てきて「リスケには応じる。利息さえ払ってくれれば不良債権の扱いにならない。私が支店長をやっている間は、絶対に廃業しないで…」と、お願いされたと聞きました。
先生:銀行員もサラリーマンですから、お客様の利益よりも自分の利益を優先することが多いですね…。
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