母の死で判明した、父の離婚歴と異母きょうだいの存在
今回の相談者は、50代会社員の田中さんです。3カ月前に亡くなった80代の母親の相続手続きをするにあたり、問題が発覚したので相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
田中さんは両親が年を取ってから生まれたひとりっ子で、父親は10年前に亡くなっています。
「父親の遺産は、横浜市青葉区の実家の土地と建物と、預貯金が1000万円ぐらいでした。申告も不要でしたので、これで母がゆっくり老後を過ごせるなら…と思い、私は一切タッチしなかったのです」
田中さんの両親は共働きで、実家の不動産は父と母で2分の1ずつの共有名義でした。父親が亡くなったときには、自宅不動産の名義変更はおこなわれず、今回母親が亡くなったことで、自宅の名義変更をするために必要な書類を集めはじめたそうです。
「母の遺産は自宅の名義半分と、やはり1000万円ぐらいの預貯金でした」
田中さんの夫は転勤族だったため、2人は自宅を保有していませんでした。しかし、田中さんの夫の配属先が変わり、東京本社の勤務となったことから、母親が暮らしていた家に移り住み、こちらで老後を過ごそうと考えていたのです。
ところが、戸籍謄本を取り寄せたところ、思ってもみなかった事実が判明しました。田中さんの父親は再婚で、先妻との間に子どもが2人いることがわかったのです。
「これまで両親から、そんな話は一切聞いたことがありませんでした。異母きょうだいとどのように交渉したらいいのか…」
「父親が、きょうだいの存在を教えてくれていたら…」
田中さんが知りえた情報は、戸籍謄本の記載のみです。筆者は提携先の司法書士に調査を依頼し、異母きょうだいの現在の住所地の確認を行いました。その後、判明した連絡先に、父親が亡くなったことや、相続手続きが必要になっていることを伝えたのです。
司法書士の話によると、田中さんの異母きょうだいは、父親が再婚して妹がいることは聞いていたそうですが、妹にたいしては他人と同等の感覚でいるようで、きわめてビジネスライクな対応だったということでした。
その後しばらくして、異母きょうだいの代理人を名乗る弁護士から、法定割合の財産を要求する旨の通知がありました。亡き父親は先妻の子どもとほとんど連絡を取っていなかったようですが、不動産があると知り、相続分の請求を考えたようです。
先方と田中さんの双方が弁護士を立て、弁護士を挟んだ遺産分割協議が始まりました。
賃貸マンション暮らしの田中さんが考えていた老後計画も、想定外の相続人の登場で、もろくも崩れてしまいました。手元に現金がないため、実家不動産を売却しなければ、異母きょうだいの法定割合分である、1人あたり6分の1に該当する金額を支払えないからです。
「父が教えてくれなくても、せめて母が、ほかのきょうだいの存在を教えてくれていたら…。私の人生に、こんな〈時限爆弾〉が潜んでいたなんて」
田中さんは大きくため息をつきました。
父親の生前、家族でこの情報を共有できていたら、生前贈与や遺言書等を活用し、実家を残すことも可能だったと思われます。もし筆者が相談を受けていたなら、まずは、配偶者の贈与の特例を利用し、父親の名義を母親に移すことをお勧めしたと思います。本来であれば、それらの対策をしたうえで、実家の不動産は残したまま現金で財産分与することが妥当だったのではないでしょうか。
しかし、この状況であれば、実家の売却は回避できません。父親の対応のツケが、亡くなって10年もの年月が経過したあとに、後妻の子である田中さんに回ってきたといえそうです。
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