米国の利下げを先取りする形で、ドル円は139円台をつけた。円高の要因を日米金利差とする解説が流布しているが、背景には貿易収支の赤字縮小を主因とする需給の改善もある。一方、依然デジタル赤字も拡大している。こうした構造を熟慮した上で今後の日本経済の在り方を考えてほしい。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)
日米金利差を円高の
主因とする解説が勢いづく
9月中旬に入り、ドル円相場は約1年2カ月ぶりの139円台をつけた。ひとえに0.5%の大幅利下げに踏み切ったFOMC(米連邦公開市場委員会)の利下げ転換を先行して織り込んだ動きだった。結局のところ、注目された9月FOMCでは大幅利下げの継続は示唆されず、逆に円安が進んでいるが、当面の間は日米金利差が縮小方向に向かうこと自体、さほど違和感のない想定である。
この点、既にそうなっているきらいはあるが、今後ますます「やはり円安は全て金利差で説明可能だった」という論調が勢いを得やすくなる雰囲気には注意したいと思う。
ドル円相場の方向感を規定する説明変数として日米金利差が重要であることは論をまたない。需給構造の変化を注視すべきと主張しつつ、方向感を規定する金利差の重要性自体、筆者が否定したことは一度もない。
しかし、110円付近から162円付近まで進んだ円安ドル高の全てを金利差に帰責させるのもまた、無理があるのではないかというのが筆者の立場である。
では金利差以外の説明変数には何があるのか。それは国際収支統計に集約される需給環境であったり、CPI(消費者物価指数)などに象徴される一般物価であったり、内外の政治・経済環境に影響を受けた投機的なポジションメークであったりするだろう。
それぞれの説明変数の力(計量分析的にいえば係数)は可変的であるため、「これが未来永劫(えいごう)、唯一絶対の要因」ということはあり得ない。
次ページでは、需給環境を検証し、今次の円高局面を分析する。