保険証券が見つからなくても心配なし!全生保会社に一括照会できる『生命保険契約照会制度』をわかりやすく解説
公開日 2021年11月9日 更新日 2022年3月14日
「住宅に次ぐ大きな買い物」ともいわれる生命保険。
その支払い保険料総額は少くとも数万円から、契約によっては数百万円以上にもなりますが、「契約成立と契約内容の証明書」である保険証券の保管場所が分からなくなってしまう人、紛失してしまう人は少なくありません。保険契約そのものを忘れ去ってしまう人もいるほどです。
万が一のことを考えて加入した生命保険にも関らず、保険金受取人や相続人が契約の存在に気がつかなかったために、保険金の請求漏れや名義変更漏れなどが生じてしまう事態もときどき起こるようです。
そんなお困りごとの解決のために、2021年7月1日より『生命保険契約照会制度』がスタートしました。これは遺族が日本国内で営業する全生命保険会社に、契約有無を一括して照会できる制度です。今回は、生命保険契約照会制度のポイントについて解説します。
目次
生命保険契約照会制度の概要
生命保険の給付金・保険金の支払いは通常、契約に定められた保険金受取人からの所定の申請があって、初めて保険金が支払われます。
不備なく請求されれば通常は数営業日で受取人の指定口座に振り込まれますが、問題は「遺族が保険契約そのものを把握していない」ケースです。
被相続人の保険加入状況を遺族が把握できていないと、長年保険料を支払っていたにもかかわらず、生命保険金が支払われない(そもそも契約の存在を知らなければ請求もできない)ということがありえます。
実は、保険金の請求権には時効があるのです。
保険法第95条によると「保険給付金や保険金、解約返戻金、前払保険料を返還する権利は、権利発生時の翌日から3年間行わなかった場合、時効により消滅するもの」とされています。数百万円・数千万円といった額の保険金が無駄になってしまっては、後悔してもしきれませんよね。
これから高齢化社会がますます進展し、認知症患者の増加により、身内の方が生命保険の加入状況を把握できないケースが増えることが予想されます。弊社でも「自分(もしくは親)が認知症になる前に保険を整理しておきたい」というご相談を頂く機会が増えてきました。
かつては災害などの特別な場合を除いて、保険会社を跨いで契約照会できる仕組みがありませんでした。しかし2021年7月からは、平時・災害時に関わらず、生命保険契約に関する手掛かりを失ってしまった場合に、全生命保険会社に一括して調査依頼を行える制度ができました。それが「生命保険契約照会制度」です。
具体的には、遺族から保険加入状況の問い合わせを受けた生命保険協会が、遺族から提供された情報を生命保険協会加盟会社全社に連絡し、照会者から指定された照会対象者(被相続人)が保険契約者または被保険者となっている生命保険契約の有無について調査依頼を行います。
それらを取りまとめて、遺族に加入状況が報告される仕組みとなっています。
照会理由と申請手続き
具体的な申請方法は、以下のリンク先(生命保険協会ホームページ)記載のとおりです。
リンク先を読むとよく分かりますが、申請にあたっては照会者の範囲や提出書類の準備などが厳格に規定されています。以下、生命保険協会ホームページからの一部抜粋です。
充実した『生命保険契約照会制度』とはいえ万全ではない 以下の点に要注意
まさかの事態に心強い『生命保険契約照会制度』ですが、定められたとおりに問い合わせすれば、それで全て解決という訳にはいきませんので要注意です。
対象は「国内で営業している生命保険会社との契約」のみ
生命保険協会に加入していない、損害保険/共済/団体信用生命保険/少額短期保険/海外保険などの契約は対象外です。
照会できるのは契約の有無まで
どの生命保険会社に契約があるかまでは分かりますが、契約種類、保険金額などの詳細までは分かりません。
内容を具体的に把握するためには個別に各保険会社に照会を掛ける必要がありますし、保険金の請求や契約名義変更などの手続きは、契約ごとにそれぞれ別途必要です。
「どうしても見つけられない場合の最終手段」と心得るべき
被相続人の保険加入状況については、保険証券だけではなく銀行引き落とし口座履歴、クレジットカード決済履歴や、契約のお知らせ・生命保険料控除証明書などの郵送物から加入状況を把握する手立てもあります。
生命保険契約照会制度は、それらでも発見できない場合の最後のセーフティネットであり、照会による手数料が一回3,000円かかる他に、公的書類や医師の診断書、間柄によっては遺言書などが必要となる場合もあります。従って、加入している生命保険契約を発見する努力は従前どおり必要と考えましょう。
とはいえネット全盛時代ですから、ペーパーレス・キャッシュレス契約でスマホを解約してしまったら、契約の証跡が全く見つけられないといった事態もこれからは考えられます。最終手段として、生命保険契約照会制度の存在を知っておくといいと思います。
請求漏れをなくすために、元気なうちにやっておくべきこと
このように、どうしようもないときにこそ大いに助かる生命保険契約照会制度ですが、そもそも請求漏れという最悪の事態を予防するために、元気なうちに家族内でやっておくべき対策があります。
それは、日頃から加入している保険について家族内で情報共有しておくことです。財産目録・エンディングノートなどを活用して、保険会社、保険種類、証券番号、契約内容等を記録しておきましょう。保険証券原本そのものやコピーをファイリングして、保険金受取人に渡しておくのも一つの方法です。
また、災害時や契約者が認知症などで保険会社に連絡できない場合に備える「家族登録制度」、特別な事情に備える「指定代理人請求制度」の活用はぜひ押さえておきたいものです。
何か事が起こってから加入保険の契約内容を保険会社に確認したいとき、コールセンターに問い合わせをしても、本人以外だと契約の有無や保障内容について一切教えてもらうことはできません。
しかし、登録された家族であれば、契約内容の確認や、保険金請求手続の書類を送ってもらうこともできます。ウェブ登録できる会社もあります。本人と家族の同意を得たうえで、代表者を登録しておきましょう。
さらに「特別な事情」がある場合、契約者があらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって保険金を請求できるのが、指定代理人請求制度です。たとえば医療保険や介護保険、高度障害保険、リビングニーズ特約など被保険者が受取人となる給付で使えます。
指定代理人請求が認められる「特別な事情」とは、保険会社によって異なりますが、一例をあげれば寝たきりで保険金を請求する意思表示ができない、病気で余命僅かであるものの、医師の判断により契約者本人が傷病名や余命告知を受けていない場合などです。
いずれにしても、各契約に基づく保険金の請求手続きには、加入している保険会社との個別のやりとりが必要不可欠になります。家族登録や指定代理人請求の手続を行うことはもちろんですが、保険証券や財産目録、エンディングノート等の保管場所についても、時間のゆとりがあるときに家族と共有しておきましょう。
定期的に家族内で加入保険の確認をすることで、入り過ぎている保険や、高齢になって必要がなくなっている保険に気付くことができて、保険の見直しをする良い機会になるかもしれません。また、万が一保険金の請求漏れに気付けば、権利発生から3年間は請求が可能です。元気なうちに、家族間で話し合っておきましょう。
まとめ
今回は『生命保険契約照会制度』についてまとめてみました。
この制度はもともと東日本大震災を機に創設され、被災者の保険契約を調べるために使われてきたものですので、地震や洪水、火災などの自然災害発生時にその真価を発揮します。
自宅が火災で焼失したり、洪水で流されてしまったりして保険証券が見つからない、データも消失してしまったようなときでも、保険金を受け取れるためのしくみです。
加えてこれからの日本は平時でも「認知症700万人時代」とも言われる高齢社会になりますから、その課題解決のためとても良い制度拡充だと思います。
日本の生命保険は得てしてコスト高、サービス過剰、無駄が多いといった論調にてメディアなどで大きく非難を受けることもありますが、有事に保険金を確実かつ迅速に遺族にお届けされる社会的使命から考えると、とても崇高なものだと感じます。せっかくの『生命保険契約照会制度』、有意義に活用したいものですね。
ご参考になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
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