国が庶民の資産を召し上げる「金融所得課税の強化」
公開日 2021年10月18日 更新日 2021年11月11日
岸田総理が就任早々、「金融所得課税の強化」に対する見解を二転三転させ、大きな非難を集めました。
ITmediaビジネスオンラインの記事より一部抜粋します。
岸田文雄総理は10月10日、テレビ番組の出演に際し、金融所得課税を当面の間は引き上げない方針を述べた。総裁選以降は、債務上限問題を抱える米国や、恒大集団のデフォルト懸念がある中国の株価指数以上に日経平均株価が値を下げたことから「岸田ショック」と呼ばれる事態となった。
「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げ、預金を証券に移転する政策を推し進めた末に金融所得増税となれば、実質的な預金課税といっても過言でない。
そんな批判や機関投資家による“日本売り”のプレッシャーをうけて、岸田総理は方針を転換せざるを得なかったのかもしれない。
しかし野党からはブレたと批判され、支持率も振るわないなど低調な滑り出しとなってしまった。
岸田総理の「当面」という言葉尻をとらえると、じきには増税するということになる。
しかし、足元でささやかれている一律25%への増税は、本当に必要なのだろうか。 実のところ日本は、我々一般人にとっては金融所得税がとても重い国でもある。増税するにしても制度設計から抜本的に見直す必要がある。
所得格差を是正するための富裕層への課税強化は、世界的な潮流
そもそも所得税は、格差是正/富の再分配という機能を持っています。
我が国の所得税率が累進課税制度で、所得が大きくなるほど段階的に税率が上がる設計になっているのもそのためです。
簡単に言えば、高所得者には相応の所得税を払ってもらうことで、低所得者に再分配しましょうという機能ですね。
所得税率は、所得が増えるほど累進的に課税が大きくなり、最高税率は課税所得4,000万円超に設定されている45%となっています。
その一方で、長年の活動によって積み上げられた利益をひとつのタイミングで獲得すると、総合課税下で税負担が大きく高まってしまう弊害を生む可能性があります。
この弊害を回避する趣旨で設けられたのが分離課税制度で、株式などの利子、配当、譲渡益を、労働所得から分離し、20%の比例税率一本で課税するようになっています。
岸田総理は、自民党総裁選の際に「金融所得課税の強化」を看板政策の一つに掲げたわけですが、
この比例税率20%を今後一律25%へ増税するかどうかという問いに対して、岸田総理の答えは
「当面は触ることは考えていない」「2022年度税制改正では議論しない」と回答・・
ではいつか上がるのか?という問いについては、
「まずは賃金を引き上げるところから始めて、次の選択を考えていく。この順番を間違えてはならない」「取り組みが早く進めばあり得る」と述べたといいます。
ということは、「当面考えない」ので時期は未確定ながら、将来的に金融所得課税が強化されるのは間違いないようです。
しかし、なぜいま増税の議論が出るのか謎
金融庁は長年「貯蓄から投資へ」というフレーズを掲げて、国主導で国民に対して資産形成のための投資を普及しようとしてきました。
その効果もあって、こちらの金融庁の調査によれば、NISA(一般・つみたて)口座数は2020年12月末時点で約1523万にも達したそうです。この状況下で金融所得課税を強化することは、リスクを取った投資に対する罰金に他なりません。
政治のことはよく分かりませんが、この増税議論の奥底に、
- 「投資家=金持ちが優遇税制を使って小金を貯め込むのはけしからん」
- 「資産運用で儲けた人に応分の負担をして貰えば、庶民からの反感も少なく課税強化できる」
というような政治的な思惑を感じてしまいます。
コロナ禍で経済的に多大なダメージを受けた日本経済を、デフレ不況脱却・需要拡大のためプライマリーバランスを止めて財政出動して立て直していこうというタイミングで、どのような形であれ増税の話をするなど経済のセンスは大丈夫なのか。とても不安になります。
まとめ
こちら↓のニュースにもあるように、ネット証券の預かり資産が右肩上がりに増えており、確実に若年層に投資参加の裾野が広がっています。「貯蓄から投資へ」の効果は、着実に出ているように思います。
NISA口座を開いて投資を始めた人たちは、収入から税金・社会保険料を払った後の可処分所得で、リスクを自己責任で追いながら年率で数%のリターンを得ているのです。そのような庶民の投資まで十把一絡げに金融所得課税の対象としてしまうのであれば、強い違和感があります。
資産税強化は、いつかやむを得ないのかもしれません。然しそのタイミングや対象範囲については、少なくともデフレ脱却を果たした後ではないでしょうか?熟考して頂きたいものです。
ご参考になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
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