【お勧め書籍】 地政学が最強の教養である “圧倒的教養”が身につく、たった1つの学問
公開日 2023年9月3日 更新日 2023年9月3日
「地政学」が最強の教養である理由
聞いたことはあるけれども知っているようで知らない。体系的に学んだことはない。
多くの方にとって「地政学」とは社会科の地理と政治を混ぜたような学問?といった感じでしょうか。
本書では、地政学とは相手の立場にたって物事を見る力を養うのに最適な、ビジネスパーソンにとって今もっとも学ぶべき学問のひとつだと断言されています。
著者の田村耕太郎氏は、証券会社や新聞社社長、投資家を経て2002年から2010年まで参議院議員を務められた方。国際経験も非常に豊富で、現在は国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院兼任教授の職に就かれています。
会社経営、政府高官、政治家、投資家、大学教授・・と様々な立場を歴任されてきた著者だからこそ書ける、日本のビジネスマン向けの地政学の入門書。それが本書「地政学が最強の教養である “圧倒的教養”が身につく、たった1つの学問」です。
日本国内のニュースや新聞、経済紙だけ読んでいても決して分からない、世界のパワーバランスがどのように成り立っているか。そのエッセンスが分かります。
そして非常に複雑かつ幅広い地政学の入門をわかりやすく平易な言葉で綴られていて、とても興味深く読むことができます。
地政学には次の6要素があるという点が、まず非常に面白い発見でした。
①気候、②周辺国、③民族性、④産業、⑤歴史、⑥統治体系
地政学の本質とは、他国の元首の立場に立った一種のロールプレイングゲームだというのです。本書の中で、特に印象深かったトピックをいくつかご紹介します。
本書のポイント
地政学は、いまだからこそ学ぶべき学問のひとつ
地政学は、海外ではいま非常に注目を浴びている学問だ。なぜか?それは長期的なトレンドを予測するスキルが身に付く学問だから。
「中国はこれからどうなるのか?」「アメリカの外交戦略は?」「日本の台湾有事への備えは?」
→すべて地政学なしでは説明ができない。地政学はあらゆる分野の企業に影響する。地政学こそが世界情勢の本質を探るための手立てになる
この50年間、日本ほど過去安定していた国家は世界的にも類を見ない
物価、政治、失業率、治安、東アジア内の国際情勢・・どれをとっても世界でずば抜けて安定していた。それゆえに世界のことなど学ばなくても、日本は日本のやり方で何とかなった。
→コロナパンデミックの2年間・水際対策で、日本人の世界への関心は更に閉ざされた
→しかし2022年、ウクライナ戦争・世界中で続く物価高騰・急速な円安・・・「国際社会は弱肉強食である」ことが改めて明らかになった
→これからの時代は、戦後の今までの時代とまったく違う時代になるかもしれない
地政学が最強の教養である理由
大きく4つの理由がある。
1.世界情勢の解像度が上がる
・日本は食料もエネルギーも海外にそのほとんどを依存している。
いますでに200万人以上の外国人が日本に暮らし、今後は人口減少で年数十万人の外国人を受けれないと国が回らない時代になる。さらに観光立国化を目指す日本には年間5000万人以上の海外旅行者が押し寄せる。
→海外情勢の解像度を上げることの重要性は増すばかり。
→地政学を学ぶこと=「国家トップの思考法」を学ぶこと。
→国家リーダーの思考フレームを学ぶことは、経営者・組織マネジメントにも応用できる部分が多い。
2.長期未来予測の頼もしいツールになる
・地政学の本質は「相手(国)の立場に立って考える」ということ。
・もしロシアのプーチン大統領立場に立ってみたら?ロシアという国の環境や地理的条件に置かれたら?ロシアがウクライナに侵攻することの狙いが分かる。
・外国人から見た「日本への投資」は、日本が抱える地政学リスク抜きには検討すらできないというのが、海外からの一般的な見方である。
3.教養が身に付く
・世界は学問別にできているわけではない。
・例えばレオナルド・ダ・ヴィンチ。美術/数学/工学/解剖学/地質学/天文学/歴史学・・など、あらゆる学問分野に精通していた「知の巨人」である。
→なぜ彼が「知の巨人」となったのか?それはあらゆる学問分野を統合しないと、世界は見えてこないから。学問を究めていくうえで自然とそうなったに違いない。
→学問分野は膨大過ぎるから人間が勝手に細分化しただけで、世界はそもそも学問別になどできていない。
・だから地政学は多様な学問を横断する。基本は「政治学+地理学」だけど、経済学/哲学/歴史学/宗教学/社会学/文化人類学などにもアプローチする必要がある。
・一見するとバラバラに見える学問分野だが、実際には様々な要素が複雑に絡み合ってできている。
4.視座が変わる、相手の立場に立てる
・「視座を変える力、相手の立場に立つ力」こそがビジネスの結果を決める。
・「人間は見たいものしか見ない生物」→だからこそ一部だけ見る狭い視点、視座ではなく、様々な視点・視座から物事を広く見られるようになると役に立つ。
・例えばニューヨークに数日間、旅行しただけで「アメリカはあーだこーだ」なんてとても語ることはできないし、分かった気になるのは逆に危険だ。
・「相手の立場に立つ力」があれば、たいていのビジネスで成功できる。
・上司/部下/同僚/取引先/見込み客など、相手の立場に立つトレーニングになる。
・地政学は、相手(国)の立場に立つロールプレイングゲームである。
→日本は陸路で国境を接している国がひとつもない。世界的に見て非常に豊かな、超レアな島国。その中でだけ通じる価値観で隣国の行動に目をやっても理解できないのが当たり前。
→日本国内テレビでは歯切れのよいコメンテーターが人気だが、白黒はっきり物事を区別できるわけがないのだ。
→例えば中国は脅威だが機会であるし、テクノロジーは有益だが有害でもある。
「地理」が国家にとって超大事なワケ
・世界的に見て「平和」とは、国と国の「力の均衡状態がバランスしている」状態のことを言う。
→現実的で持続する平和を維持するには、地政学的な理解が必要。
・中国は国土が日本の25倍以上と超広い。
→その国土の大部分は「ステップ気候」と呼ばれる乾燥地帯。砂漠や草原で、農作には全く適していない。こういった土地で安定した食料調達を行なうには、まず水の確保が必要。そのためには大規模な土木工事が必要で、とてつもない量の労働力の確保が不可欠だった。
→こうしたステップ気候は定住に向かない。だから古くから常に移動するスタイルの騎馬民族が存在した。彼らの生活スタイルは主に狩猟と略奪で非常に戦闘的だった。彼らから身を守るため考え出された防衛手段が、広い国境線を守る万里の長城。
→このような巨大なインフラを建設していくために統一された言語、文字、暦が作られ、官僚制度が作られた。「中国はなぜ中央集権的なのか?」といえば、こういった地理的な要素が大いに関係している。
地政学の6要素
筆者の考える地政学の6要素とは、①気候、②周辺国、③民族性、④産業、⑤歴史、⑥統治体系、を指す。
①気候:
G7諸国のほとんどは北緯30度~60度までの四季のある温帯に属する。今後、地球温暖化などで気候が変われば地政学的な条件が変わり、多くの国が安全保障上の行動を起こすだろう。(北極や南極の開発など)
②周辺国:
例えばロシアは14もの国々と国境を接している。日本のような島国の方が世界的にはレアケースで、地続きの国家は常に侵略の恐怖に晒されてきた。他国への警戒感が常にあるのだ。
③民族性:
日本人が「島国根性」と揶揄される要因の一つは他国への無関心さゆえ。同じ島国でも世界中から人々を受け入れてできた国がアメリカ。一見すると真逆のようだが、実はアメリカも他国から攻め込まれる危険性が殆どなく、生産物のほぼすべてを自国内で賄えてしまうため、アメリカもまた他国への関心は薄い「巨大なガラパゴス」だ。
④産業:
産業革命は西欧と日本でしか起こらなかった。実はこれにも地理が深く関係している。キーワードは封建制度。封建制度の中から豊かな領主が生まれて、これが産業への投資、資本主義を産み出すことになった。
⇒印刷、コンパス、火薬の3大技術はすべて中国発祥だが、中国では強力な中央集権制度があったがゆえに資本主義が産まれることはなかった。
⑤歴史:
①~④が決まってくると歴史も決まってくる。例えば、攻撃的な周辺国や民族の侵略を受け、独自の産業も育たなかった国家は、悲しい歴史があることが多い。
⑥統治体型:
自由民主主義を謳歌している国の人々は条件反射的に強肩国家を批判しがちだが、そんな単純なものではない。国家がランドパワー(大陸国家)なのかシーパワー(海洋国家)なのかによって、統治体型は大きく異なる。
台湾有事は本当に起きるのか?
著者は発生の可能性は、まだ低いと考えていると述べている。
しかし台湾有事がもし起きたら?そのインパクトは世界を破壊するほどのものになるだろうと予測する。
なぜなら台湾有事は、世界1位、2位、3位の国々の軍事争い、経済戦争となり、そして半導体の中核技術をも巻き込むものとなるからだ。
まとめ
本書は一般的にとっつきにくい「地政学」を、一般人でも分かりやすく読めるよう平易に解説された良書です。
実は上記の要約は、本書の序盤2割ほどしか触れておりません。
本文ではさらに、アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ諸国、中東、インドなど世界各国の目線で見た、地政学的な分析が論じられています。
個人的にはどのパートも、目からウロコが落ちるばかり!とても興味深く読みましたし、教養を深めるのにもリアルビジネスに生かすための知見を習得することにも大変有用でした。
【“圧倒的教養”が身につく、たった1つの学問】というキャッチコピーは、大げさなように感じましたが、読了した後にはぴったりのコピーと思いました。多面的な物事の見方を身につけたい方にぜひお勧めしたい1冊です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
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