「顧客本位の業務運営」が一層求められる保険業界 2022最新状況
公開日 2022年7月6日 更新日 2022年7月20日
週刊ダイヤモンド2022/06/11「保険特集号」掲載ポイントまとめ
年1回の恒例となっている週刊ダイヤモンドの「保険特集号」。
保険業界に属する、アンテナの高い人はほぼ確実にチェックしているとも言われる、定期的な特集号です。
昨今の生命保険業界では、営業職員による金銭不祥事や組織ぐるみの不正契約などが報じられる一方、保険会社は増え続け、商品開発競争・販売競争も一層激しさを増し、各社がしのぎを削る戦場となっています。
新契約獲得の過当競争の中、監督官庁は「顧客本位の業務運営」というキーフレーズのもと規制強化の動きを強めており、ただでさえ元々ややこしい業界事情がより一層混沌としてきた印象です。
そんな状況下において本特集は毎回、タイムリーな商品ランキングや業界トレンドがぎゅっとまとめられていて、保険業界に身を置く人にも、これから保険を検討しようとしている人にも大変参考になる1冊になっています。
本誌から、個人的に気になったところをごく一部だけ取り上げてみます。
目次
生保商品13分野「ベスト・ワースト」ランキング
まず初めに恒例となっている、独立系のファイナンシャルプランナーや、代理店経営者28人が選ぶ各分野の商品ランキングが特集されています。
これは
- 医療保険・がん保険などの第三分野
- 死亡保障性の定期保険などの第一分野
- 介護・認知症・外貨・変額などのその他分野
の売れ筋商品をまとめたランキングです。
このランキングを見て驚いたのが、上位にランクされた商品がほぼすべて、カタカナ生保(外資系・大手生保子会社の生保)とひらがな生保(大手損保子会社の生保)の商品で占められていたこと。簡単に言えば、誰もが名前を知るような大手保険会社の商品はほぼ全てランク外、という事態です。
特に医療保険・がん保険の分野は最近レッドオーシャン化していて顕著ですが、ここ何年かは少なくとも数か月に1回程度の頻度で、どこかの保険会社が新商品や新しい特約などを新発売しています。
そんな状況が何年にも渡って続くと、率直に言って商品スペックそのものでは比較ポイント・情報量が多すぎ、プロでも分析は容易ではなく、もはや消費者がまともに比較できる状態ではなくなっていると思います。
つまり競争が激化して商品が進化・細分化しすぎたために、消費者にとっては逆に良い商品を選びにくくなる・・という皮肉な状況を招いているのです。
こういった状況であるがゆえに、逆説的ではありますが、ダイヤモンド誌のような一般認知度の高い経済紙(つまり第三者の目線)で、取り上げられる商品ランキングの価値が高まっているように感じます。
なぜなら28人ものプロが自社の利害抜きでお勧め商品を選出している訳ですから、上位に少なくともおかしな商品は入っていないだろう・・・という推測が成り立つからです。
保険募集というのは、代理店によっては「当社は(商品の優劣に関わらず)A保険会社・B保険会社・C保険会社を優先して提案します」という勧誘方針のところもあります。
そのような商品の良し悪しを踏まえた比較推奨をそもそもやっていない代理店や、独善的な主観が強すぎる募集人にあたるよりは、本誌をざっくり眺めたほうが客観的な一次選択ができると言えると思います。
顧客本位の商品開発やサービスを調査 王者はメットライフ、最下位は?
近年、営業員の不祥事や苦情などの絶えない生命保険業界において、金融庁の肝いりで指導されている「顧客本位の業務運営」は、あらゆる保険会社にとってサービスを提供する上での最優先の経営課題と言えます。
その重要性の高さから、一経済誌のランキングとはいえ大いに注目すべきだと思うのがこの記事。「顧客思い」の保険会社ランキングです。
なぜかといえばこのランキングは、募集現場での実際のオペレーションやコールセンターのサービスレベル、給付・請求における実態など、一般人より遥かに保険会社の実務を知っているFPや代理店経営者によってランク付けされているからです。
そしてランキングを見てみると、やはりというべきか売れ筋商品を開発している会社や、ユニークな付帯サービスを顧客に提供し始めている会社、分かりやすいウェブサイト・保険金請求の仕組みを取り入れている会社などが上位を占める結果になっています。
逆に、「顧客本位ではない会社」にランクしてしまったのは、かんぽ生命や国内大手生保、ソニー生命など。近年マスコミで報じられるような不祥事や、属人的なオペレーションが多い会社が上位に来ているように感じられました。これらの会社については「顧客不在の営業手法」ときびしく評価されていました。
「コロナ保険」で業界に冷や水
保険スタートアップの旗手として知られる少額短期保険会社のジャストインケース社が2022年4月、コロナ禍を背景に大量に販売していた「コロナ助け合い保険」の販売停止と、保障内容の遡及変更という“禁じ手”を発表しました。
「保障内容の遡及変更」というのは、あの東日本大震災でも行われなかったことで、言わばお客様の信頼を裏切る行為です。
保険約款には「保障内容が削減される可能性がある」としていたために法的には問題ないものの、お客様との契約を保険会社が自分たちの都合で後から変えるのは“後出しじゃんけん”であり、約束破りと言われても仕方がありません。
この大失態は、少額短期保険業界に大きな禍根を残すだろうと報じられています。
(後日2022/7/4付で、同社に対しては関東財務局より、業務改善命令が発令された旨が報じられました)
節税保険 宴の終焉
「法人向け節税保険に過度に傾倒し、金融庁の逆鱗に触れた外資系生命保険会社、マニュライフ生命。今年2月14日に金融庁認可を招く事態に陥った。」
法人向けの「節税保険」に関する記事では、こんな書き出しでマニュライフ生命の内情に迫った記事が掲載されていました。
「法人保険で節税」の話法については、2019年2月ごろまでは業界盟主のニッセイをはじめ、かなりの数の保険会社が節税保険の商品開発・販売に傾倒していたのです。
そして「節税保険」自体、中小企業経営者の強いニーズと商品訴求力があったからこそ爆売れしていた側面もあったわけで、そのこと自体が悪いとは思えません。
問題は、税制改正がすでに2019年・2021年と二度に渡って行われて監督指針も変わり、「保険で節税は出来ない」という業界共通の認識共有と注意喚起が散々行われていたにも関わらず、ガバナンスが守られていなかったという点にあると報じられています。
まとめ 「顧客本位の業務運営」「ガバナンス強化」は、これからの保険業務運営の鍵になる
今回は「顧客本位の業務運営」がより一層求められる保険業界 2022最新状況は?」と題して、ダイヤモンド誌の特集からトピックをごく一部、取り出してみました。
同誌およびWEB記事が掲載された直後の6/21には、日本経済新聞に「金融庁、保険業界の資格にメス 代理店に実態調査」という記事が載りました。
「生保加入チャネルにおける保険代理店の存在感の高まりとともに、苦情件数なども増えていることから、金融庁が代理店監視の強化に乗り出す」という趣旨です。
金融機関に「顧客本位の業務運営」を強く求めてきた金融庁ですが、これからは独自営業を進めてきた保険代理店にも「顧客本位」を浸透させるよう、注力していく方針のようです。
売り手の金融機関や代理店には、法令違反は論外として企業内のガバナンスや内部統制に問題がないか、「顧客本位の姿勢」を蔑ろにして過剰な営業目標のみを求め続けていないか?という点が、更に厳しくチェックされるようになりそうですね。
消費者の目線からとしても、新契約の加入時だけでなく、その後の契約フォローや保全手続き、保険金・給付金・解約時の請求までしっかり対応してくれる募集人や代理店を選ぶことが、ますます大切になると思います。
当記事がご参考になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
皆さんが安心して納得できる金融商品選びができるよう、わかりやすい記事を書き続けることで貢献していきます。