個人事業主は生命保険を経費にできる?経費にできる・できない保険料を紹介します!
公開日 2023年6月25日 更新日 2023年6月25日
ご自身に万一のことがあった際、事業資金や残された家族の生活費確保のため、生命保険に加入している個人事業主も多いのではないでしょうか
たとえ万が一のときの運転資金を準備する目的で生命保険に加入していたとしても、支払った保険料は経費に計上できません。ただし、所定の要件を満たせば所得から一定金額が控除されて、所得税を軽減できる可能性があります。
本記事では、個人事業主が支払った生命保険料の取り扱いや経費にできる保険料の種類などを解説します。
目次
個人事業主が支払った生命保険料は経費にできない
個人事業主や専従者が被保険者(保険の対象となる人)である生命保険や医療保険の保険料は、経費にできません。
(※専従者とは、青色申告を選択する個人事業主と生計をともにしており、業務に従事している配偶者や15歳以上の親族)
経費として認められるのは、以下のどちらかに該当する費用です。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用
※出典:国税庁「No.2210 やさしい必要経費の知識」
要するに、経費になるのは売り上げを得るために必要であった費用です。事業主やその家族の万が一に備えて生命保険に加入して支払う保険料は、上記のどちらも該当しないため、プライベートな支出として扱われます。
ただし、被保険者が従業員であればば、保険料を「福利厚生費」として経費に計上できます。
被保険者 |
経費計上 |
仕分け科目 |
事業主・専従者 |
(×)できない |
事業主貸 |
従業員 |
(○)できる |
福利厚生費 |
生命保険料控除を適用できると所得控除が受けられる
生命保険料を経費に算入することはできませんが、一定の要件を満たしているのであれば「生命保険料控除」という所得控除を受けられます。
所得控除は、所得税を計算するときに所得から一定の金額を差し引ける制度のことです。生命保険料控除を適用できると、年間で支払った保険料に応じて決まる一定金額が所得から控除されるため、所得税の負担を軽減できることがあります。
所得から控除される金額の決まり方は、生命保険に加入したタイミングによって異なります。2012年(平成24年)1月1日以降に、生命保険(死亡保険)に加入した場合、所得から控除される金額の上限は以下の通りです。
- 所得税:最大4万円(年間の払込保険料が8万円超の場合)
- 住民税:最大8万円(年間の払込保険料が5.6万円超の場合)
個人事業主が経費にできないその他の保険料
生命保険料の他にも、個人事業主や専従者のために支払った以下の支出は経費に計上できません。
支出 |
概要 |
国民健康保険料 |
経費にはできないが、社会保険料控除を受けられる |
国民年金保険 |
経費にはできないが、社会保険料控除を受けられる |
健康診断や人間ドックの費用 |
経費にならない |
傷害保険料 |
経費にはならず、生命保険料控除の対象にもならない |
事業主や専従者が被保険者である国民健康保険料と国民年金保険料は経費にはできませんが、全額が社会保険料控除の対象となります。所得税や住民税を計算するときは、1年間で払い込んだ保険料と同額が所得から控除されるため、一定の節税効果は得られます。
事業主や専従者が、業務中や通勤中に負ったケガに備える目的で傷害保険に加入していた場合、払い込んだ保険料は経費にはなりません。また、生命保険料控除も対象外となります。
ただし、傷害保険に特約を付けていた場合は、特約部分の保険料が生命保険料控除の対象になることがあります。
法人が支払った生命保険料は経費に計上できる
法人が契約者と保険金受取人となり、経営者や役員を被保険者にして生命保険(法人保険)に加入する場合、支払った保険料の一部または全部を損金に算入できることがあります。
保険料を経費に算入できる法人保険の中でも代表的なのが「定期保険」です。定期保険は、保険期間が10年などの一定である生命保険です。
定期保険では、経費に算入できる保険料の割合は解約返戻率のピークに応じて決まります。解約返戻率とは、解約返戻金の受取額に対する支払保険料の総額です。
ピーク時の解約返戻率と保険料の取り扱いを簡易的に表記すると、以下のとおりとなります。
ピーク時の解約返戻率が高い定期保険ほど資産性が高いといえるため、経費に計上できる保険料の割合は少なくなります。
なお、法人保険は個人事業主も加入できますが、契約者と受取人が法人でないのであれば保険料は経費にはなりません。保険料を経費(損金)にするためには、法人成りをしたうえで契約者と受取人を法人、被保険者を社長にして法人保険に加入する必要があります。
個人事業主が経費にできる保険料
個人事業主が支払った生命保険料は経費として認められませんが、以下の保険料は経費に計上が可能です。
【個人事業主が経費にできる保険料】
- 自動車保険料
- 火災保険料
- 地震保険料
- 従業員の傷害保険料
- 従業員の生命保険料・社会保険料
自動車保険料や火災保険料、地震保険料については、保険の対象である自動車や建物などをプライベートでも利用している場合「家事按分」をする必要があります。家事按分とは、プライベートで使用している費用と事業に使用した部分を合理的な基準で区分することです。
ここでは経費に計上できる保険料や勘定科目を解説します。
自動車保険料
事業で使用している自動車やバイクなどが保険の対象である自動車保険に加入している場合、保険料を経費に計上できます。たとえば、商品を運送するために使用しているトラックや軽バンなどが保険の対象であれば、自動車保険料は経費となります。
所有する自動車を事業とプライベートの両方で利用している場合は、家事按分をして算出した金額を経費に算入することが可能です。家事按分によって事業で使用した金額を算出するときは、車両の使用回数や走行距離などを基準にします。
自動車保険料を経費に計上する場合、勘定科目は「損害保険料」となります。
自動車保険(任意保険)の契約期間が複数年にわたる場合、経費に計上するときは1年間の保険料を算出しなければなりません。これを期間按分といいます。
自賠責保険については加入期間が1年以上であっても期間按分をする必要はなく、加入した年に支払った保険料の全額を経費に計上します。
火災保険料
火災保険に加入して、火災や自然災害などでの損害に備えている場合、保険料を経費に計上できることがあります。たとえば、保険の対象が事務所や店舗であった場合、火災保険料の全額を経費に計上することが可能です。
自宅の一部を事務所としても利用している場合や、自宅と店舗が併設されている店舗併用住宅で事業を営んでいる場合は、家事按分をする必要があります。家事按分で経費に計上する保険料は、事業で使用している部分の面積や事業に使用する時間などをもとに算出します。
火災保険を経費に計上するときの勘定科目は、自動車保険料と同様に「損害保険料」です。また、加入期間が複数年にわたる場合、支払った年に全額を経費に計上するのではなく、1年あたりの保険料を計算して毎年経費に計上する点も自動車保険と同様です。
プライベートで利用している部分の火災保険料ついては、経費にあたらないだけでなく、所得控除の対象にもなりません。
地震保険料
地震や津波による損害に備えるために、火災保険とあわせて地震保険に加入していた場合も、保険料の一部または全部を経費に計上できます。経費に計上できる金額の算出方法や勘定科目は、火災保険と同様です。
一方、プライベートで利用している部分の地震保険料は、所定の要件を満たせば「地震保険料控除」の対象になります。地震保険料控除で所得から控除できる金額は、以下の通り1年間で支払った保険料の合計に応じて決まります。
年間の合計支払保険料 |
控除額 |
50,000円以下 |
支払金額の全額 |
50,000円超 |
一律50,000円 |
※参考:国税庁「No.1145 地震保険料控除」
たとえば、年間で支払っている地震保険料が10万円であれば、地震保険料控除を適用できると所得税や住民税を計算するときに所得から5万円が控除されます。
従業員の傷害保険料
事業主が契約者となって、従業員が被保険者である傷害保険に加入していた場合、保険料を経費に計上できます。勘定科目は、以下の通り契約形態によって異なります。
受取人 |
勘定科目 |
従業員・従業員の遺族 |
福利厚生費 |
事業主 |
支払保険料 |
また、被保険者を従業員、受取人を事業者として傷害保険に加入しており、受け取った保険金を財源として支給した見舞金は「福利厚生費」として経費に計上できます。
従業員の生命保険料・社会保険料
事業主が従業員を被保険者にして生命保険に加入していた場合、保険料を福利厚生費として経費に計上できます。
従業員を被保険者にして生命保険に加入するケースの例は、以下の通りです。
- 従業員の死亡退職金や弔慰金を準備するために掛け捨て型の生命保険に加入した
- 従業員の退職金を積み立てるために満期保険金や解約返戻金がある生命保険に加入した
※満期保険金とは保険期間の満了時に被保険者が生存していたときに支払われる保険金
※解約返戻金とは途中で解約したときに戻ってくるお金
また、従業員のために事業主が支払った健康診断や人間ドックの費用は、福利厚生費として経費に計上が可能です。
事業主が支払った従業員の社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・労災保険料・雇用保険料)は「法定福利費」として経費に計上が可能です。
まとめ
個人事業主や専従者の生命保険料や社会保険料は経費にできません。ただし、生命保険料は生命保険料控除、社会保険料は社会保険料控除を適用することで、一定金額を所得から控除できます。
自動車保険料や火災保険料、地震保険料などは、事業に使用している部分のみ経費に計上が可能です。また、従業員のために支払った生命保険や傷害保険の保険料、社会保険料なども経費となります。
帳簿を付けるときは、経費と認められる支出を正しく把握することが重要です。判断に迷う場合は、最寄りの税務署や税理士に相談することをお勧めします。
【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
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