役員退職金を法人の生命保険で準備するメリット・デメリット
公開日 2023年5月8日 更新日 2023年6月5日
法人の役員が退職する場合の退職金準備には、どのような方法があるのでしょうか。その方法のひとつに、生命保険を活用する方法があります。ただし、どの生命保険でも良いわけではありません。
本記事では、役員退職金を保険で準備する方法や、関連するメリット・デメリットについて解説します。同時に、保険で準備ができない場合の代替策もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
役員の退職金を法人の生命保険で準備するメリット
役員退職金を法人保険で準備する主なメリットは、主に次の5点です。それぞれについて解説します。
【役員退職金を法人保険で準備するメリット】
- 計画的に準備が可能
- 税金対策ができる
- 緊急時に貸付を受けることができる
- 万が一のときは家族が従業員の保障になる
- 赤字決算を防ぐことができる
計画的に準備が可能
役員退職時を見据え、毎月の保険料を支払っていく方法で計画的に資金準備を進められます。
将来の退職金に充当するための資金を計画的に積み立てていくことが可能です。
税金対策ができる
法人保険は、保険料の一部または全部を損金に算入できます。それにより、法人税の対象となる利益が少なくなるため、税金対策として有効です。
一方、保険商品によっては損金にできる割合が異なる点や、満期金や解約返戻金の受取時にかかる税金も考慮すべきである点は注意が必要です。ケースバイケースのため、税金対策に関しては保険のプロや税理士等の専門家の指示を仰ぎましょう。
緊急時に貸付を受けることができる
役員退職金の資金確保のために加入している生命保険では、貯蓄性が重要です。そして貯蓄性のある生命保険では、基本的に契約者貸付制度が利用できます。
契約者貸付制度とは、解約返戻金のある貯蓄性の高い生命保険商品が対象となっています。一般的に、貸付を受ける時点での解約返戻金の7~9割程度までの金額の貸付を受けることが可能です。将来的に受け取る保険金や解約返戻金を前借りするようなイメージであるため、無担保・無審査で貸付が受けられます。
ただし貯蓄性のある生命保険であっても、一部の商品は契約者貸付制度の対象外の場合があります。法人保険への加入時には、念のため契約者貸付制度の対象であるかどうかを確認しておくと安心です。
万が一のときは家族や従業員の生活保障にもなる
法人経営者に万が一のことが起こった場合、経営者の家族の生活保障や従業員の給料保障としても活用することが可能です。
経営者を含む役員に何かあった場合、経営が不安定になり最悪の場合資金繰りの悪化が懸念されます。仮に生命保険加入から数カ月であっても、相続が発生した場合には死亡保険金としてまとまった資金が法人に支払われます。
つまり、役員退職金名目で法人契約の生命保険に加入している場合であっても、万が一相続が発生した場合には法人や役員家族、従業員まで幅広く保障されるわけです。
赤字決算を防ぐことができる
役員退職金の確保を目的として法人契約で生命保険に加入すると、解約返戻金から固定資産額を引いた額が収入(利益)として計上されます。その収入の範囲内で退職金を支払うことで、赤字決算を防ぐことができます。一方で、配当金を支払う必要がある場合は赤字決算ができない点は注意が必要です。
赤字決算について心配な場合や、どのような対策をすればよいか悩む場合には、生命保険の活用を検討すると同時に税理士など専門家への相談もおすすめです。
役員の退職金を保険で準備するデメリット
ここからは、役員の退職金を保険で準備する主なデメリットをご紹介します。
【役員の退職金を保険で準備するデメリット】
- 解約時期を考慮して契約したほうが良い
- 保険料が高額な場合がある
- 金額によっては退職金を損金にできない場合がる
解約時期を考慮して契約したほうが良い
役員の退職金準備として活用されることが多い生命保険には、逓増定期保険や長期平準定期保険があります。
通常、個人が加入する定期保険では保険料は掛け捨てで、解約返戻金はほとんどありません。しかし、法人契約だけで販売されている逓増定期保険や長期平準定期保険では、解約返戻金が期待でき一定の時期にピークを迎えます。この解約返戻金のピークは、加入時の年齢や保険期間などの条件によって一定ではありません。そのため、役員の退職時期と解約返戻金のピークを合わせた保険に加入することが望ましいでしょう。
なお、このピークを迎える前に解約すると、積立金が少ないため解約金も少ないままです。逆に、ピークを過ぎた場合でも、保険期間満了までの間に解約返戻率は低くなります。つまり、解約時期を誤ると、役員への退職金原資となる解約返戻金が大幅に少なくなってしまう事態を招きかねません。
法人保険加入時には、解約返戻金のピークと役員退職時期が重なるように保険を設計することが大切です。
保険料が高額な場合がある
前述のように、役員退職金として一般的に普及している逓増定期保険や長期平準保険は、いずれも1回当たりの保険料は高額な場合がほとんどです。そのため、企業の経営状態によっては保険料支払いが資金繰り悪化の一因となりかねず、キャッシュフローの悪化につながるリスクがあります。
この事態を防ぐためには、法人保険の加入前の段階で、長期的に継続して保険料を捻出できるかどうか検討する必要があります。
資金繰りの悪化に伴い保険を中途解約することになった場合、解約返戻金のピークを迎えていないと返って大きな損失を被ることもあり得ます。保険の本来の意義のひとつは、継続することです。法人の経営を考えたときに、確実に長期的に継続できる保険料を設定してください。
金額によっては退職金を損金にできない場合がある
税務調査により、企業の規模や業績になどから総合的に判断し退職金が高すぎると判断されることがあります。その場合は損金算入できません。
法人は役員退職金を支払うかどうか、また退職金をいくらにするか自由に設定できます。ただし、退職金の金額によっては損金不算入となる場合があることから、保険加入前の段階で自社にとって適正な金額を退職金準備として備えましょう。
役員の退職金準備のために取れる方法
ここからは、役員の退職金準備として具体的な方法を見ていきましょう。生命保険の活用も含めた次の7つの方法をご紹介します。
【役員の退職金準備の主な方法】
- 小規模企業共済
- はぐくみ基金
- 逓増定期保険
- 長期平準定期保険
- 預金
- 有価証券
- 不動産投資
小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員の退職金代わりとして比較的ポピュラーな制度が、小規模企業共済です。今日規模企業共済は、掛金が全額所得控除となるなど税制面の優遇も受けられます。
ただし、小規模企業共済の加入要件は個人事業主や小規模企業の経営者または役員のみです。具体的には、建設業・製造業・宿泊サービス業・不動産業などを営む場合で従業員数20名以下、卸売業や小売業、サービス業を営む場合は5名以下の従業員数であるなどの加入要件があります。
掛金月額は1,000円から7万円までの範囲内で、500円単位から設定可能です。小規模企業共済独自の貸付制度もあるため、退職金以外の活用もできます。
<参考記事>
はぐくみ基金
はぐくみ基金(正式名称:福祉はぐくみ企業年金基金)は、厚生労働大臣の認可を受けて設立された企業年金制度(確定給付企業年金基金)です。
2018年に創設された比較的新しい制度ですが、近年の雇用環境の変化にあわせて、柔軟に自由度の高い退職金積み立て制度を設定できるのが特徴の制度となっています。具体的には、以下の主な特徴を備えています。
- 老後だけでなく、退職時や休職時に支給される
- 「選択制」の制度設計により、掛金など新たな負担を抑えながら導入できる
- 会社側のリスクを極限まで下げる仕組みを整えている
導入する企業側にも積み立てを行なう役員・従業員側それぞれにメリットが多く、デメリットが少ない制度です。近年、大きな注目を集めている退職金積み立て制度と言えます。
<参考記事>
逓増定期保険
逓増定期保険は、基準保険金額が一定のピークを迎えるように設定された法人経営者向けの保険です。
逓増とは「時間の経過とともに増えていく」という意味で、加入期間が長くなることで支払われる保険金が増える点がこの保険の特徴。年数を経ると同時に、会社の成長も進み経営者の責任は徐々に増えることを想定した保険の仕組みです。
逓増定期保険は、役員の退職時期と解約返戻金が最も大きくなる時期を合わせることで、最大の税対策となります。ただし、ピーク時期よりも早い解約や、逆にピークを逃した解約では退職金への備えとして不十分となることもあるためご注意ください。
加入時には必ず役員の年齢や保険期間などを基に、適正な時期に解約返戻金のピークを迎えるような保険内容で加入を検討しましょう。
長期平準定期保険
長期平準定期保険とは、長期にわたって保険料や保障が一定である保険です。前述の逓増定期保険と同様に法人保険の中でもメジャーな商品です。法人契約での長期平準定期保険は、主に事業保障対策・死亡退職金などの財源として活用されています。
長期という名称からわかるように、正気平準定期保険は通常保険期間が100歳前後まで続く仕組みです。保障が長く続くのと同時に、まとまった解約返戻金も見込めます。
また、定期保険という名称から、個人向けの定期保険のように保険料が掛け捨てで解約返戻金がないと思う方は少なくありません。しかし、長期平準定期保険は、保険料は定期保険のように割安な傾向にあり、解約返戻金は一定のピークを迎えるよう設計されています。この特徴から、役員退職金準備に適していると同時に、法人に何かあった場合の資金確保としても有効活用が可能です。
預金
生命保険を役員退職金への備えとする方法は、保険料を損金算入することで税対策も兼ねていました。一方、ここでご紹介する預金は、いわゆる貯金のことですが、掛金ではないため損金算入する対象がありません。単純にこつこつ積み立てていく方法で、将来役員へ支払う退職金原資とする方法です。
また、いまだ金融機関の超低金利時代は継続していることから、まとまった金額が必要となる退職金への備えとしては少々心もとないかもしれません。たとえば、10年後に3,000万円の退職金を支出したいと考えた場合、10年にわたって年間300万円の預金が必要です。逆に考えると、3,000万円の退職金原資が必要で、年間100万円なら捻出できると仮定する場合、単純計算で30年かかってしまいます。
これらのことから、預金のみで退職金原資への備えをすることにはあまりメリットがありません。
有価証券
有価証券とは、株式や債券のことを指します。有価証券は、預金と同じく損金算入できるものがありません。したがって節税対策としては効果が薄いのです。
ただし、有価証券の価値は日々変動しているため、預金よりも増える可能性はあります。同時に大幅に減ってしまうリスクもあるため、確実に資金を確保したい退職金への備えとして有価証券はリスクが高いでしょう。
不動産投資
不動産投資は、投資手法のうち現物投資の一種です。前述の有価証券と同じく、将来的な価値の変動が予測できないため、リスクが高い投資商品です。
また、不動産投資は契約手続き自体に手数料が多くかかりますし、購入した不動産を維持管理する費用や、固定資産税なども恒常的にかかります。そのため、確実に資金を確保したい場面においては手数料負担が大きい点がリスクです。同時に、売却したいタイミングで必ず利益が出ているとは限らないため、将来の価格がわからない不安定さもあります。
したがって、不動産投資を役員の退職金準備として積極的に活用する方法は、ややリスクが高いといえるでしょう。
ただし、これまでに不動産投資の経験があり、ノウハウがわかっている場合であれば退職金準備の選択肢のひとつとしても良いかもしれません。なぜなら不動産は減価償却の面で税対策としても考えられるからです。
まとめ
役員の退職金準備として生命保険を活用することには、さまざまなメリットがあります。退職金準備以外にも、損金算入できることで法人税対策となることや、資金繰りが悪化した時に貸付が受けられる場合があるでしょう。
法人保険の中でも、逓増定期保険や長期平準定期保険など超品の特徴によって自社に最適な保険は違います。
法人保険を長く取り扱い、豊富な知識と経験のあるトータス・ウインズでは貴社のご状況に合わせてお話をお伺いします。必要に応じて税理士など提携している専門家もご紹介しますので、ぜひ一度ご相談ください。
【経歴】
1979年生まれ 京都市出身。
同志社大学経済学部卒業後、日本ユニシス株式会社(現BIPROGY 株式会社)入社。一貫して金融機関向けITシステム開発業務に携わる。
金融システム開発の現場で、2007年~2009年頃のリーマンショックによる経済の大混乱、強烈な景気後退、資産の激減などを目の当たりにする。
その経験から、「これからの日本人の合理的な資産形成・防衛に、正しい金融リテラシーが絶対に必要」という強い思いを持ち、2011年4月 株式会社トータス・ウィンズに入社。
中小企業に特化したリスクマネジメント対策のコンサルタントとして、500社以上の中小企業、1,000人以上の保険相談業務に携わる。2015年、代表取締役就任。
法人保険活用WEBサイト『点滴石を穿つ』を運営する一方で、法人向け保険代理店として、東京都中央区を中心にコンサルティング活動を行なう。
【趣味】
美術館巡り、千葉ロッテマリーンズの応援
【自己紹介】
中小企業向けの金融商品が数多ある中で、わたしは一貫して『100%顧客優位な商品選び』をポリシーに中小企業経営者向けの保険活用プランニングを行なってきました。
これまでのキャリアでの最大の学びは、『お金やお金の流れに関する知識や判断力=「金融リテラシー」は、私たちが社会の中で経済的に自立し、生き抜くために必要不可欠』ということです。
そして金融・保険に携わるプロとして、何よりお客様に対する誠実さ・真心・信頼関係より大切なものはないと考えています。
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